« ペルー国交断絶宣言報道に納得いかない | Main | 米軍再編情報 »

November 22, 2005

憲法を守る保障制度

またもやrenqingさんが面白い問題提起をなさっていたので、憲法を守るための制度を検討してみたい。

憲法を守る制度

(1)憲法保障制度
「憲法の最高法規性は、ときとして、法律等の下位の法規範はじめ権力保持者の違憲的な行為によって脅かされ、あるいはゆがめられる、という事態が生じる。そこで、このような憲法の崩壊を招く政治の動きを事前に抑止し、または事後に是正するための装置を、あらかじめ憲法秩序の中に設けておかなければならない。憲法にその実効性を担保する制度が存在しないかぎり、真に「法の支配」の原理を表現した憲法と言うことはできないのである。この装置ないし制度を一般に、憲法保障制度と言う。」(『憲法学Ⅰ 憲法総論』芦部信喜 60-61 頁)
○憲法保障制度の例
イ 憲法自身に定められている制度(組織化された制度)
公務員に対する憲法尊重擁護の義務づけ(99 条)、権力分立制(41条、65 条、76 条1 項)、硬性憲法の技術(96 条)及び事後的救済措置としての違憲審査制(81 条)
ロ 憲法には定められていないけれども超憲法的な根拠によって認められると考えられる制度(組織化されない、又は組織化できない制度)抵抗権や国家緊急権

(2)硬性憲法の意義
「憲法には高度の安定性が要求されるが、反面また、政治・経済・社会の動態に適応する可変性も必須の条件である。
……この安定性と可変性という相互に矛盾する要請を調和させる憲法的技術が、硬性憲法だと言うことができる。憲法規定は一般に簡潔で将来の社会情勢の発展に対して開かれた形になっている場合が少なくないが、それだけでは政治・経済・社会の動態に適応することは不可能であるから、安定性の要請を充たしつつ時代の動態に合法的に応えるためには、特別に困難な手続による憲法改正を認めておかねばならないのである。
もっとも、困難な改正手続といっても、硬性度は国により時代により異なる。いかなる機関が改正を決定するかという観点から近代憲法の硬性の程度を類型化すれば、次の三つに大別される。
① 議会で決定する型 この典型は戦前のドイツ憲法である。憲法は「立法の方法」で改正される建前がとられ、定足数と表決の要件が通常の立法の場合よりも加重されているにとどまる。西欧諸憲法では、この要件に、同一議会または異なる議会による再議決という特別の要件を付加するものが多い。
② 特別の憲法会議で決定する型 この典型はアメリカ合衆国と革命期フランス諸憲法である。あらゆる憲法改正について必ず会議を設置する国と、特定の場合(例、憲法の全部改正)にだけ設置する国とがある。また③の方式を併用したり、議会による議決のほかに憲法会議の承認を要求したりする憲法も少なくない。
③ 国民投票で決定する型 議会の議決した改正案を国民投票に付し、国民が成否を決定する制度で、アメリカ諸州とスイスにその典型がみられる。国民の憲法制定権力の思想を純粋に具体化した方式と言えるが、特定の機関(元首、政府、一定数の国会議員、または一定数の国民等)が要求した場合にだけ投票に付す任意的国民投票制をとる憲法(例、イタリア、第四共和制のフランス)もあれば、あらゆる場合に強制的国民投票を要求する憲法(例、日本、スイス)もある。
いずれの方式が妥当かは、時代により国により異なるが、憲法の最高法規性の観念が強固であれば、②または③の方式を採るのが自然である。ただ、あまりに硬性度を強めると、可変性が少なくなるので、憲法が違憲的に運用される事態を招くおそれが大きくなるし、反対に、硬性度を弱めると、憲法保障の機能が失われてしまう。
日本国憲法は、……諸国に比べて硬性の度合がかなり強い。」(『憲法学Ⅰ 憲法総論』芦部信喜 67-70 頁)

憲法に反する法律を争う憲法裁判所WIKI参照
ドイツやフランスなどは抽象的審査制(具体的な権利義務の争いがなくても合憲性を問える)を採用し、通常の裁判所とは別に憲法問題だけを取り扱う憲法裁判所を設置している。
これに対し、日本国憲法では付随的審査制(具体的権利義務の争いがあって合憲性を問題とする)を採用としており、司法権の限界が違法審査制の限界となる。

違憲となる行為を行った場合には無効となり法令ならば適用されない。
大阪高裁の小泉首相靖国神社参拝違憲判決は無効な行為であるとしているので法的拘束力がある。
さて、renqingさんの最大の疑問は、違憲の行為を続けているのになぜ罰せられたり、損害賠償をしなくても済んでいるのかという点だろう。
大阪高裁の判決は、損害賠償を認めなかったが、最高裁判所も名目的損害賠償を認める方向にあるので、今後は損害賠償請求を認める判決が出る可能性も高い。

憲法保障制度が人権を守るのか

いくら法律で殺人を禁止していてもスピード違反を取り締まっていても、法律を侵害する人はいるものである。しかも、国の行政権の長が繰り返し憲法を踏みにじりつづけていることに憤るのは至極まっとうな感覚である。
憲法の由来からして肥大化する権力を拘束する技術である。
残念ながら法的技術というものはそれを共同体に存在する人々が守らなければ、何の意味もない。
権利だって、憲法に書いてあるだけでは権利とはいえない。それを行使し守らせつづける連綿たる営みの継続が権利を実効あるものとする。多くの人が歩いた跡が道となるのだ。

民主主義国家において憲法に反する行為を認めつづけているのは、私たち有権者の責任である。
選挙制度やマスメディアの問題はあっても違憲行為を繰り返す首相を喝采をもって迎えているのは私たち現在の大人だ。「命がけで憲法を破る」などと寝言を言う都知事を喝采する者は、自分の子供が「命がけで人を殺す」と言っても止めないのだろうか。
憲法9条の問題でも、制定直後から改憲の圧力があり、多くの為政者が改憲の意図を持っていたがそれを公言すると票が減るから公言しなかったにすぎない。今彼らが改憲を公言して憚らないのは、票が減ることは無いと思っているからだ。

様々な憲法保障のための法的制度を検討することも大事なのだが、いま最も大事なのは私たちがもっと憲法や権利についてもっと知り、判断する前提を手に入れることではないのだろうか。私たちは民主主義の道程にいるのだ。

|

« ペルー国交断絶宣言報道に納得いかない | Main | 米軍再編情報 »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

Comments

miyauさま、TBありがとうございます。

おっしゃるとおり、我われは民主主義の道半ばだという自覚が必要ですね。

我われの過去と未来への好奇心を刺激し続ける工夫が必要だと思います。

今思えば、米仏がイラク戦争の開戦で激しく対立した意味も、この辺にあったのではないかと思われてきます。あのときのド・ビルパンの名演説が思い出されます。一方で、ブッシュ大統領がアルジャジーラ攻撃を英・ブレア首相へもちかけたことがあったという驚くべき疑惑が出てきました。

一番怖いのは、弱者虐めの重税乱発、戦争などの合法的殺人、生存権などの人権蹂躙、憲法違反、そして政教分離の原則などを屁とも思わぬ状態まで暴走したブッシュや小泉のような政治権力者(暴君)によって我われが思考停止の魔法をかけられることです。

今の「フランスの暴動」にしても、単に「フランスの移民問題の失敗だ」と理解して終わらせれば、我われの意識は少しも変化しませんね。

大騒ぎ中の「耐震強度計算の偽造マンション等の問題」にしても、根本原因が“各業界と政官界の癒着構造、各民間検査機関を後押しする関連業界団代への高級官僚の天下り、安易な民営化原理主義の誤謬、市場原理主義による経営者乃至ビジネス現場の劣化・堕落、政界と黒い地下水脈の癒着”などのレベルまで掘り下げなければ、同じ問題は形を変えていつまでも存在し続けると思います。

この点で殆んどの日本のメディア(特にテレビ)は堕落していると思います。「耐震強度計算の偽造マンション等の問題」に関して某一級建築士の後ばかり追いかける映像の連続は、「小泉劇場」のパフォーマンス映像の垂れ流しとバカ騒ぎの報道姿勢に繋がっています。これで終わりだと言わんばかりで、我われに思考停止を誘っているようです。

憲法裁判所の問題にしても、与党が考えることは“時々、最高裁判所が与党に都合の悪い判断を示すことがあるので、最高裁判所へ政治的な圧力を加える仕組みが必要だ”という、まことに驚くべき発想になります。彼らは今でも本気でそう思っていると思います。

やはり、“フランス革命は未だ終わっていない”のだと思います。』

Posted by: toxandoria | November 25, 2005 at 06:32 AM

toxandoriaさんTB&コメントありがとうございます。
厳格な政教分離と共和制へのこだわりを持っているフランスでさえ、古くて新しい「民主主義をどう貫徹するのか」に悩んでいる姿を見るに付け、こういうシステムを作れば間違いは無いとはいえないことを痛感させられます。「フランス革命は未だに終わっていない」と考えることが今も恐らく将来も実にナイーブな社会の健全性を保つために必要なことなのではないかと思います。
まだまだ啓蒙主義の出番が無くならないのだろうかとも。

Posted by: miyau | November 26, 2005 at 02:25 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24848/7131273

Listed below are links to weblogs that reference 憲法を守る保障制度:

» 自民党新憲法案への懸念 [晴耕雨読]
 新憲法草案から中曽根氏起案の前文が起草委員会事務局の手で削除になった騒ぎなどが伝えられています。  識者?や宮沢元総理などは、予想よりもずいぶん大人しい案であるかのコメントを流していました。  田舎の百姓は、御上やマスコミにはずいぶんと裏切られ続けてお....... [Read More]

Tracked on November 22, 2005 at 04:11 PM

» [民主主義の危機]「暴動の炎」はフランス共和国への絶望と希望の相克[3] [toxandriaの日記]
[フランス共和国の理念] (1)フランス建国理念のルーツ   現代のフランスを規定する歴史上のエポックは言うまでもなく「フランス革命」です。そして、この大革命の根本理念である「自由、平等、博愛」がフランス共和国憲法の理念の基盤です。現在の憲法は1958年に制定された「第五共和国憲法」です。フランスの「第五共和制」は、アルジェリア在留軍などの反乱の危機に際して、国家の統一と威信を説き国民の前へ再登場したド・ゴール(第二次世界大戦でフランスをナチス・ドイツから解放した救国の英雄)が、1958年6月... [Read More]

Tracked on November 25, 2005 at 05:30 AM

» 大日本国憲法第17条 [本に溺れたい]
大日本国憲法第17条 第17条 何人も、公務員の違憲行為、および不法行為により、 [Read More]

Tracked on December 03, 2005 at 02:30 AM

» ここ数日間の防衛問題と憲法9条について [世相春秋]
ここ数日間、防衛関係の動きがにわかに加速しており、懸念を 深めています。先月11月25日、防衛庁は陸海空自衛隊の、 「統合運用開始」を来年3月に控えて、現在、統合幕僚会議長 から、自衛官つまり制服組のトップとなる、統合幕僚長の権限を 強化して、内局の官僚、つまり背広組に限っていた、直接補佐 を制服組へ認めて、制度化することを盛り込んでいます。 それは、どういうことかと申しますと、戦後今まで日本が貫いてきた 文民統制(シビリアンコントロール)の概念がいっぺんに屈返させら れるわけで... [Read More]

Tracked on December 05, 2005 at 09:47 PM

» 大日本国憲法第18条 [本に溺れたい]
第18条 何人も、あらゆる奴隷的拘束を受けうる。又、犯罪に因らなくとも、その意に [Read More]

Tracked on December 06, 2005 at 03:53 AM

» 大日本国憲法第19条 [本に溺れたい]
大日本国憲法第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。ただし、東京 [Read More]

Tracked on December 06, 2005 at 05:25 AM

» 大日本国憲法第20条 [本に溺れたい]
第20条 信教は、国に逆らわない限り、何人においても自由である。     2 何 [Read More]

Tracked on December 07, 2005 at 06:45 AM

» 大日本国憲法第21条 [本に溺れたい]
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、公共の福祉(=国家の [Read More]

Tracked on December 08, 2005 at 06:04 AM

» 大日本国憲法第22条 [本に溺れたい]
第22条 何人も、お上に逆らわない(公共の福祉*に反しない)限り、居住、移転及び [Read More]

Tracked on December 09, 2005 at 04:54 AM

» 大日本国憲法第23条 [本に溺れたい]
第23条(御用学者の)学問の自由は、これを保障する。 [Read More]

Tracked on December 10, 2005 at 02:43 AM

» 自民党新憲法案への懸念 [晴耕雨読]
 新憲法草案から中曽根氏起案の前文が起草委員会事務局の手で削除になった騒ぎなどが伝えられています。  識者?や宮沢元総理などは、予想よりもずいぶん大人しい案であるかのコメントを流していました。  猜疑心がこみ上げて来まして、眺めてみると、なんとさりげなく96条の憲法改正要件が変えられようとしているではありませんか。  現在は、両院でそれぞれ2/3以上の賛成で改正を発議でき、その後の国民投票で過半数が賛成することで成立することになっております。  ところが新憲法草案では、  両院でそれぞれ1/2以上の... [Read More]

Tracked on December 17, 2005 at 09:10 PM

« ペルー国交断絶宣言報道に納得いかない | Main | 米軍再編情報 »