「福祉」の心ってなんだろう-映画「石井のおとうさんありがとう」
明治時代「福祉」という言葉すら無い時代に3000人もの孤児を救った男がいた。
その名は石井十次。
「親のない孤児よりももっと不幸なのは心の迷い子、精神の孤児なのです」。
山田火砂子監督。現代ぷろだくしょん。昭和7(1932)年、東京生まれ。新宿精華高等女学校を卒業後、舞台女優を経て、映画プロデューサーに。実写版の「はだしのゲン」、「春男の翔んだ空」、「裸の大将放浪記」など数多くの映画を製作・公開した。初の監督作品としては、アニメ映画「エンジェルがとんだ日」がある。これは重度の知的障害者である長女とともに歩んできた半生を題材としたもの。ドキュメンタリーの「るりがくえん物語」。次回作は映画「滝乃川学園」。著書に「トマトが咲いた」がある。これは娘2人を育てながら、映画のプロデューサーとしてがんばってきた、泣き笑いの29年間をまとめたもの。福祉、教育、子育て、平和など幅広いテーマで講演活動も行っている。
山田火砂子監督のインタビューから抜粋してご紹介いたします。
「めったに取れない厚生労働省児童福祉文化財の特薦になったのよ!」現代ぷろだくしょんの事務所は明るい笑顔であふれていました。翌日から渋谷で一般公開というお忙しいなかおじゃましました。「はだしのゲン」「裸の大将放浪記」などを制作
「現代プロダクション」の山田火砂子さんは、元舞台女優。妊娠中に投与された黄体ホルモンが原因で長女みきさんが知能障害を持って生まれ、苦労するうちに福祉について関心を深め、「自分の得意な方法で世の中を変えよう」と、映画を撮る側になりました。故山田典吾監督と2人3脚で「はだしのゲン」や「裸の大将放浪記」など数多くの社会派の名作を世に送りつづけてきました。
マリのように弾み続けの連続でもあきらめない
「芸名は麻里千亜子。人生もマリのように浮き沈みが激しかったのよ。映画というのは難しくて、ただいい作品を作ればうまくいくものではないの。億単位のお金がかかるしね。ヒットに恵まれないときに、今度は怪しい人が寄ってきて、騙されて不渡りを出して自宅も何もかも取り上げられて、どん底も味わったけど、何がなんでもあきらめなかったのよ。裁判官に自己破産を薦められても、『絶対にイヤ!』と、だだをこねるくらいにね(笑)」。
「愛」を忘れた世の人々に石井十次の思いを伝えたい
「アメリカでもヨーロッパでも大学で必ず福祉のことを教えるの。福祉というのは、同情や恵んでやることではなく、他人を思いやる、愛するということ、あたりまえのことなのよ。日本は障害のある人と健常者が別々に生活しているし、学校も別々だから他人を思いやる『愛』を忘れがちになる。だから殺伐とした世の中になると思うの。だから、日本の福祉の父と呼ばれる石井十次の映画を撮りたかったの」。
明治時代に3000人もの孤児を救った石井十次の心を伝える映画を撮りたいという一心で資金集めから始め、「石井十次に似ているから」と、お願いした松平健さんが石井十次の姿に感銘を受けて快諾。ついに昨年夏に「石井のおとうさんありがとう」が完成。各地のホールで巡回上映していました。
想いのこもった映画は人々の心を打ち、口コミとマツケンサンバの追い風に乗り大ヒット、昨年3月テアトル系での凱旋上映を果たしました。
「世の中を良くするために私もあきらめないで『生涯現役』と思い頑張って映画を撮りつづけています。
現代ぷろだくしょんにおじゃましまして、監督の山田火砂子さんにお会いする機会がありました。
元女優で現役の監督さん74歳(!)とっても元気でキュートなおばあちゃん。だがしかし、「罵声は今日の糧と思え!」と事務所に書いてありました(^^;)。 十次の娘役をしていた女優さんにお茶をいただいて恐縮しながらでしたが、山田火砂子監督のパワーには圧倒されっぱなしでした。
私は、昨年3月渋谷の一般公開を観にいきました。すごく地味な映画なのですが、実在の人物のお話をもとにしているということや、孤児や石井十次を取り巻く人の様々な態度、子供たちの健気さに涙してしまいました。
人の行為を評論するだけの口しか動かさない人々に憤ったりもしました。
予算1億円という低予算映画に、豪華な俳優陣の演技が重厚さを与えていました。
監督の山田火砂子さんは御年74歳なのですが、「世の中を変えるために映画を撮っている。これからも完成させる」とやる気の衰えない姿に石井十次の姿が重なって見えました。
石井十次という人は、福祉の父と呼ばれる人で、福祉という言葉すらない時代に3000人の孤児をひきとって立派に育てた人物だそうだ。「病人は他の人でも治せる。だが、孤児たちには私しかいない」。声なく弱い者に心を寄せ、人生の全てを捧げた姿に感慨を覚えずにはいられませんでした。
教科書に出てくる人には、戦争をたくさんやって人を殺した人とかも多いのだけれど、こいうい人物があまり知られていないのは日本の知識人の怠慢なんだよなーと思う。
新しい歴史教科書とかには、たくさん人を殺した「英雄」じゃなくてこんな人を取り上げてはいかがかな?
上手い映画ではないけれど、いろいろな気持ちがこもっている良作でした。1口1000円の協賛券の普及だけで1億円が集まり、一般公開されるほどのヒットとなったこの作品の不思議な魅力は一見の価値があります。
最初の上映は2004年8月ですから、草の根で驚異的なロングラン上映中です。
「石井のおとうさんありがとう」公式ホームページ
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