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April 03, 2006

12歳の特攻隊員

千葉県出身のTさんは、今年で74歳になるとは思えない闊達な方だ。彼は皮革加工の職人だった。通産大臣賞など数多くの賞をとり、エルメスの修理などを任されるほどの腕利きだった。残念なことに息子に後を継がせるには忍びないほどしか儲からないからと、昨年長年続けてきた商売をやめた。

温厚で優しいTさんはよく「私は死んでいたかもしれない人間だから」と言う。
何か死にそうな目にあったんですかと問うと、「そうだよ私が特攻隊に入隊させられる直前に戦争が終わったんだから」と、ほんの5日終戦が遅れたら入隊させられていたことを教えてくれた。入隊予定日は8月の20日だったそうだ。

日露戦争や日清戦争はイギリスなどから軍資金などの援助があったから勝てたようなものなのに、あれでいい気になったのかどうか。はなから勝てっこないアメリカに戦争を仕掛けて、日本の支配者たちは、多くの日本人とその他の国の人々を殺したんだよ。私も殺されそうになった。あやうく特攻させられるところだったんだ。
当時私は背が高かったので「特攻要員」として徴兵された。まだ12歳だったのに。終戦間際には、千葉にも特攻基地ができた。足りない兵隊を現地調達しようとしたんだろうね。私の住んでいた千葉県の上空では既に空中戦が始まっていて、どんどん日本の飛行機がアメリカ軍に撃ち落されるのを見て知っていたから、これは「殺される」って思ったよ。
特攻のための飛行機も、最初は鉄製だったけど、そのうちベニヤ板で作るようになって、ガソリンがないものだから、松根油を強制連行してきた朝鮮人や挺身隊を使って取り出させたり本当に馬鹿なことをやっていたんだよ。そんなので飛行機が飛ぶはずないのに。
うちの母親が私を徴兵すると言ってきたことにたいして、「うちはもう、大黒柱(Tさんのお父さん)を徴兵されているのにどうして長男まで持っていこうとするのか」とそれはもうたいへんな勢いで抗議したんだけれど、私は軍隊に連れて行かれた。
軍隊は嫌なところだったと父が言っていた。年齢に関係なく上下関係だけが大事にされるから30代の父が士官学校を出たての20そこそこの少佐だか少尉だか階級のついたやつに威張り散らされる。ただ、いばりちらすだけじゃない。無意味な暴力など日常茶飯事で、それよりつらかったのはみんなの見ている前で陰毛を抜かれたことが一番の屈辱だった。
「日本を守る」なんて言っているこいつらがどうして安全な場所にいて同じ日本人をいじめているのだろうって不思議に思ったものだよ。
終戦を知ったとき、次は自分の番だった。私は権力者たちに殺される一歩手前で命拾いしたんだ。

「靖国神社に行くと、白塗りされた特攻機が置いてありますよね。私にはあれは棺おけに見えた。あれをみてカッコイイとか感動するという人もいるようですが」。

私は死んでも靖国神社に祭られたくなどなかった。あんなむちゃくちゃな殺され方されそうになって「英霊」と言われたって嬉しくない。生きていて良かったと心底思う。
戦争が終わると威張り散らしていた軍人どもと私たちの立場が逆転した。私の父は勉強家だったから現地で少し中国語を勉強していた。そのおかげで、自分をいじめていた上官たちは捕虜になったが父は通訳として仕事をすることになった。
私の住んでいた村では戦争中にみんなに威張り散らして嫌われていた軍人が、夜中に布団ごと田んぼに放り出された。みんな内心は同じだったのかもしれないね。
戦争が終わったことをみんなで喜び合った。強制連行されていた朝鮮の人が魚を取って日本人の村人たちと一緒にお祝いしたそうだ。
戦争ってさ、馬鹿馬鹿しいもんだよ。Tさんはとしみじみ語った。

「偉い人」の都合で英霊として祭り上げられている人の中にもTさんと同じ思いの人が結構いたのではないか。
美化され祭り上げられたとしても、大勢の人々が犬死させられたことを消すことなどできはしないのだ。

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